2018年05月20日

(5)渦中から離れて

 今朝は5時半に起床。顔を洗ってすぐにこのコラムを書き始めた。テーマはもちろん、あの反則タックルから始まる日本大学の指導者の対応を巡る問題である。
 書きたいことはいっぱいある。情報もあちこちから寄せられている。チームに迷惑がかかるかもしれないが、とにかく書いてみようと、2000字近い文章を一気に書き上げた。
 いったんコーヒーを飲み、もう一度読み返した上で、いつも掲載前にコラムをチェックしてもらっている小野ディレクターと石割ディレクター補佐に送信。さて、微妙な問題だから、お二人からどんな反応があるかと注目していたら、間もなく小野ディレクターからメールが届いた。「いまは非常にセンシティブな状況なので、このコラムは預からせて下さい。別のテーマで書いていただけると助かります」という内容だった。ある意味では予想通りの反応である。チームを運営する責任者としては、当然の対応と言ってもよい。
 当方も、潔く、この申し出に同意し、このホームページでの掲載を見送ることにした。
 もちろん、自分が気合いを入れて書いた文章である。それなりに愛着はある。けれども、書くことによって、今回の件に対する自分の考えの整理はできた。それを少なくともお二人には目を通していただいた。それだけで満足という気持ちも強い。その満足感の中から、新たなテーマで、別のコラムを書いてみようという意欲も湧いてきた。
 そんな次第で書いたのが以下の文章である。タイトルは「赤坂ダッシュ」。読者のみなさまの気分転換の一助になれば幸いである。
     ◇    ◇
 ファイターズは今季も50人近い新入部員を迎えた。スポーツ選抜入試や指定校推薦で大学の門をくぐったメンバーがいれば、高等部や啓明学院のアメフット部で活躍したメンバーもいる。アメフット経験者だけでなく、野球やバスケットなど他競技の経験者も多い。そんなメンバーが左腕の上部に自身の名前を書いた腕章を巻いて、4月の初めから基礎体力づくりに励んでいる。
 顔を知っているのは昨年の夏、推薦入試に備えて一緒に小論文を勉強したメンバーだけだが、彼らの状態はそれぞれに異なる。推薦入試を突破し、昨秋から体力づくりに励んだメンバーは筋肉質な体型を造り上げているし、ある種の開放感から高校生活をエンジョイしてきたメンバーは何となくだぶついた体型になっている。
 体型だけではない。新入部員合同の練習の後、いくつかの班に分かれてグラウンドと周辺の坂道を全力で走る時の様子でも、彼らがこの半年間、どんな生活をしてきたかの想像はつく。ある部員は颯爽と先頭を走り、別の部員は必ず途中で遅れ始める。ラインの選手の多くは自分の大きな体を持て余し、いつも最後部を走っている。
 コースはざっと600メートル。途中、行きと帰りに短い坂道があり、それが結構きつい。新入生は基本的に毎日これを3本、全力で走り、都合60本を走り終えると、とりあえず基礎的な体力が付いたとトレーナーに認めてもらえる。
 歴代の部員が「赤坂ダッシュ」と呼んで苦闘してきたこのダッシュを見ているのが楽しい。誰が将来、このチームを担っていくのかということが、その走る姿から、ある程度想像が付くからである。いつも先頭グループで気持ちよく走っている選手は、必ずプレーヤーとして頭角を現す。走るのが苦手でいつも最後尾の集団にいても、一歩でも前にという気持ちを前面に出して走るメンバーもまた、必ず成長し、気がつけばラインの主力選手になっている。
 このことは、卒業生も含めて、各学年で常に先頭グループを引っ張っていた選手の名前を挙げると分かりやすい。第三フィールドに移ってきた最初の年、スタート直後には必ず先頭に立っているが、50ヤードほど走ったところで必ずといってよいほど失速していた選手がいた。後にWRとして活躍した萬代晃平君である。ペース配分を考えれば600メートルくらいは余裕で走れたはずなのに、とにかく最初のダッシュに全力を挙げ、あとは失速しても仕方がないという割り切った走り方が印象に残っている。鳥内監督の次男坊、将希君は常に後続をぶっちぎっていたし、WRからDBに転向して活躍した田中雄大君のスピードも記憶に残っている。
 現役で言えばRBの山口君がいつも先頭で、それを追うのがWR小田君とQB西野君。それぞれがいま、4年生としてチームを引っ張っている。トレーナーの澤田君に聞くと、山口君はこの赤坂ダッシュの記録保持者だという。
 こうした努力で体力を養い、筋力を付けてきたフレッシュマンが連休明けから、続々と上級生の練習に合流している。いまはまだまだ大学生の練習に慣れない様子も見受けられるが、すでに「あれは誰?」「どこから来たん?」と上級生から注目されているメンバーもいる。
 大村コーチによると「今年の1年生はいい。期待できますよ」ということだった。僕もすでに、何人かの名前をチェックして手帳に記し、その練習振りを見守っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:22| Comment(1) | in 2018 Season

2018年05月13日

(4)ファイターズの道

 今日、関西学院大学で開かれたファイターズの記者会見に出席。5月6日の日本大学との定期戦における「日大選手による反則行為」に関するファイターズの見解と主張をじっくりと聞かせていただいた。
 すでに新聞やテレビの報道、それにネット上の多様な書き込みによって、問題の発端となった日大選手の反則行為についてはご承知の読者も多いとは思いますが、あえて私見を述べさせていただきます。フットボールを愛し、ファイターズのチーム作りに全幅の信頼を置いている老人の繰り言になるかもしれませんが、おつきあいいただければ幸いです。
 まず、記者会見でファイターズから配布された資料の要旨を箇条書きで紹介します。
@当該の反則行為について、試合後にビデオ映像で確認したところ、関学のQBがボールを投げ終わって約2秒後に、相手DLが背後からタックルをしているA当の選手はボールには一切反応せず、QBだけをめがけて突進し、プレーが終わって力を抜いている状態の選手に全力で突き当たったうえ、倒れた選手の足をねじっているBこれはプレーとはまったく関係なく、当該選手を傷付けることだけを目的とした意図的で極めて危険、かつ悪質な行為であるCこのDLはその2プレー後、及び4プレー後にもそれぞれパーソナルファールの反則を犯し、3回目の反則で資格没収となったが、試合後の日大監督のコメントは、これらの反則行為を容認するとも受け取れる内容だったDファイターズは10日付けで日大アメリカンフットボール部の部長及び監督に対して厳重に抗議する文書を送ったEその内容は・日大DLの関学QBへの1回目のパーソナルファールに対するチームとしての見解を求めると同時に、関学QB及び保護者へのチームからの正式な謝罪を求める・日大の監督が試合後にメディアに対して出したコメントに対する見解とコメントの撤回及び前項の行為が発生したことについての指導者としての正式な謝罪を求める……といった内容です。
 これとは別にファイターズは、11日付けで関東学生連盟にも「連盟が規律委員会を設けて詳細を調査するとのことでありますが、その調査の過程で弊部へのヒアリングを強く要望します」という内容の要望書を提出したことも明らかにしています。
 文章にすれば、長々とした説明になりますが、以上の件の大半は、ファイターズが記者会見で提供したビデオ映像を見れば一目で理解できます。
 すでにSNSやネット上では、問題の場面が何度も再生されていますので、機会があれば見ていただきたいのですが、僕は今日の会見で記者のために繰り返し再生されたビデオを見て「これはアウト。ネットで『殺人タックル』という言葉が飛び交っている理由がよく分かる」と思いました。
 同時に、この記者会見が開かれる何日か前に書いた僕のコラムは、一字一句修正する必要がないとも確信しました。
 このコラムを書いているのは12日の夜ですが、実はこの週の半ばにこの問題に関して自分なりの考えをまとめ、デスクとして原稿をチェックしていただいている小野ディレクターに送信していました。しかし小野さんからは「この問題に関しては、チームとして見解をまとめ、対処しようとしているところです。土曜日に記者会見を開きますので、それまでは原稿を預からせて下さい」という話があり、僕もそれを了解して一端はボツにしていたのです。
 記者会見も終わり、チームとしての見解が正式に公表されましたので、ボツにしていた原稿の一部を再生させていただきます。概要は以下の通りです。
 ……そもそも大学における課外活動とはどういう意味を持っているのでしょうか。大学、高校などでは通常、課外活動という言葉を使っていますが、もう一歩進めて、課外教育と捉えた方がより分かり易く、目的も明確になるのではないでしょうか。
 多くの学生はいま、大学での学びと並行して部活動に熱中しています。オリンピックに出場するような選手もいれば、常に大学のトップを競うファイターズのようなチームもあります。一方で、部員が揃わずに苦労しているクラブもあります。一口に部活といっても、その内実は千差万別です。けれども、それぞれ状況は異なっても、一つの競技に打ち込み、自分を鍛え、高めようと取り組んでいる点においては、体育会に所属するすべての部員が共通の土俵に立っているといってもよいでしょう。
 その共通の土俵とは何か。スポーツを通じて身体を鍛え、強い心を育むこと、仲間との友情を育み、生涯の友を得ること、ライバルに敬意を表し、互いに最高の状態で戦うことといってもいいのではないでしょうか。
 そこからは、相手を傷つけてもよい、再起不能にしてもかまわない。どんな手段をつかってもよいから勝て、といったような発想が出てくるはずはありません。
 その意味で、いま問題になっている日大の選手のプレーは、当該選手の問題だけでなく、指導者の問題、組織の問題と合わせて総合的に捉えなければ真実は見えてこないのではないでしょうか。
 今回の問題で僕の脳裏に浮かんだのは、プリンストン大学の選手やコーチ、体育局の指導者のことでした。彼らは2015年春、ファイターズの招きで来日し、親善試合やシンポジウムを通じて爽やかな交流をしてくれました。試合では圧倒されましたが、彼らが見せてくれた課外教育やボランティア活動に取り組む姿、勉学と両立させながらの練習や試合への取り組みなどを思いおこすと、今回の事例との距離は天と地ほどの開きがあります。
 今回のことは、思い返すだけでも腹立たしいことです。けれども日本の大学の課外活動の現実と限界を見せつけてくれたという意味では、一つのエポックになるはずです。
 それを信じて、学生たちの心身の成長、発達を促すための組織づくりに突き進んでいきましょう。関西学院の課外教育のよきモデルとしての道を歩みましょう。大学当局にも、大学スポーツ界にも、必ず目の見える人はいるはずです。もちろんファンの目も確かでしょう。
 いまは「一粒の麦」かもしれませんが、今日の記者会見で蒔かれたこの麦が日本の学生スポーツ界の現状に風穴を開けることを信じて疑いません。合い言葉は「どんな人間になんねん」(by鳥内監督)です。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:45| Comment(3) | in 2018 Season

2018年04月25日

(3)開幕戦

 21日は待ちに待った開幕戦。明治大学との対戦である。
 シーズンの初戦といえば、選手でもないのにやたらと緊張する。先発メンバーにはどんな顔ぶれが並ぶのか。実績のある選手が出場するのか、それとも今季に期待されるメンバーを思い切って登用するのか。僕が密かに期待しているメンバーは、先発は無理でも、交代メンバーとして出場機会がもらえるのか。そこで物怖じせずにプレーができるのか。
 これは毎年のことだが、前年のイヤーブックを繰りながら、それぞれの選手の顔を思い浮かべ、日ごろの練習振りの記憶をたどって、注目選手の名前を頭に刻んでおく。いくら仕事が忙しくても、これだけの作業をきちんと済ませておくと、応援が数倍楽しくなる。
 開幕戦を前に、今季、僕が注目していることの一端を箇条書きにしてみよう。
 @QBは誰が先発するのか。常識的には昨年から活躍している4年生の西野か光藤ということになるのだろうが、初戦前の練習では主として新2年生の奥野が務めていた。昨秋は1軍の練習台になるJVチームとして一軍の選手を翻弄していたQBである。その華麗なステップと正確なパスを見てきただけに、シーズンの初戦を任されて、練習時の力が発揮できるのか。第一に注目した。
 A同じく攻撃では、春からレシーバーの練習に入り、パスキャッチの練習に余念のなかったQBの西野やRB山口らが本当にレシーバーとして出場するのか。ひょっとしたら、秋のリーグ戦を見据えた練習かも知れないが、実際にWRとして起用される可能性がないともいえない。そこで練習通りに見事なキャッチができるかどうか。これも見逃せないポイントである。
 B昨年の先発メンバーから井若君と池田君が卒業したOLには、どんな顔ぶれが並ぶのか。とにかくけが人が出やすいポジションだけに、試合に出られるメンバーは多ければ多いほど助かる。昨年から先発しているメンバーに加えて、先日の紅白戦(青白戦)で元気なプレーを見せた3年生の藤田統や2年生の高木慶がどんな活躍をしてくれるか。ここも目が離せない。
 C守備では誰が先発するのか。DLもLBも再建色が強い。絶対的な守護神、小椋君が抜けたDBの穴を誰が埋めるのかも興味深い。裏返せば、昨年まで先発の座をつかめなかった4年生はもちろん、3年生や2年生にも下克上のチャンスがあるということだ。交代メンバーとして出場する選手を含めて、この試合はそれぞれの存在感をアピールする絶好の機会である。そのチャンスをつかむのは誰か。興味が深まる。
 Dこの試合前、今季初めて背番号をもらった2年生が6人いる。攻撃ではQB奥野、RB鈴木、RB三宅、WR大村。守備ではLBの海崎、繁治である。彼ら「第一種選抜」のメンバーがどれほどの活躍をするのか。そこもチェックしなければならない。
 Eそして最後は、昨年、未経験者としてファイターズに入部し、1年間体力づくりにいそしみ、フットボールというスポーツを理解することに専念してきたメンバーがどれほど成長したか。高校で野球やラグビー、バスケットボールをやっていた面々の中からどんな選手が頭角を現すか。第3フィールドの練習では、すっかりチームに溶け込んでいるだけに、いざ実戦という場面でその恵まれた資質を開花させるかどうか。個人的には、ここに一番注目した。
 さて試合である。ファイターズのレシーブで始まる。QBは予想通り奥野。驚いたのはWRにエースQBの西野が入っていること。レシーバーとしての練習にはしっかり取り組んでいたが、まさか先発で来るとは思わなかった。
 新しいメンバーが多いせいか、立ち上がりの攻撃は2シリーズとも不発。ダウンが更新できず、2度ともパントに追い込まれる。
 逆に、明治はこの試合に向けて十分に準備してきたのだろう。緩急を付けたラン攻撃でファイターズ守備を左右に揺さぶり、合間に的確なパスを通す。第2シリーズ目、自陣37ヤードから始まった攻撃をTDに結び付け、キックも決まって7−0。
 あれれ、やばいぞ。そういう空気を今度はファイターズが一瞬で変える。自陣36ヤードから始まった攻撃でRB山口が58ヤードを独走してTD。キックも決まって同点に追いつく。
 しかし、明治の士気は衰えない。ファイターズのパントをキャッチしたリターナーが素早い動きで関学陣22ヤードまでリターン。これをFGで仕上げて10−7。いとも簡単に主導権を奪い返す。逆に言えば、ファイターズが受け身を強いられているということだ。
 それでも次のシリーズ。RB渡邊の好リターンで陣地を挽回。奥野からWR山下へのパス、RB鈴木のランなどで陣地を進め、最後はK安藤が45ヤードのFGを決めて再び同点。
 試合は振り出しに戻ったが、ここで明治に手痛いミスがでる。パント体型からスナップされたボールがそのままゴールラインを割り、ファイターズにセーフティーの2点が加算された。さらに第2Q終了間際には、K安藤が再びFGを決め、15−10でファイターズがリードしたままハーフタイム。
 後半になると、コーチ陣から何らかの指示が出たのだろう。ファイターズ守備陣の動きが一気によくなる。LB藤田優の強烈なタックルやDB西原の素早いパスカバーで相手攻撃を完封。即座に攻撃権を取り返す。前半、手段を尽くして攻め込んでくる相手の動きに翻弄されていた守備陣とは思えないほどのかわりようである。
 攻撃陣もそれに呼応して再び安藤が47ヤードのFGを決めて点差を開く。試合終了間際には、奥野からRB山口に17ヤードのパスが決まってTD。普段の練習から山口や西野らランニングバック陣にパスキャッチの練習をさせていた成果が見事に現れた。
 以上のように書いていけば、試合会場に行けなかった読者は今季のファイターズも期待できるチームだと思われるに違いない。しかし、関西リーグの強敵や関東のライバルチームを見据えれば、そうした判断は早すぎる。まだまだ発展途上のチームだし、伸ばしていかなければならない点はいくつもある。そのあたりのことは次回以降に書くことにして、今日はQB奥野が十分に使えること、K安藤に安定感が出て、今季はキッキングチームにも期待が持てること、そしてQBやRBをレシーバーとしても使うという「大阪商人の知恵」が成功したことだけを強調しておきたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:11| Comment(0) | in 2018 Season

2018年04月17日

(2)新生

 一気に咲いた桜が一気に散り、気がつけばもう甲山は新緑で盛り上がっている。僕が大学に通う際に利用している楠通りの並木道に連なる巨木たちも一斉に緑の新芽を繁らせている。クスノキ、コナラ、エノキ……。それぞれ微妙に色合いの異なる新芽を眺めながら歩いていると、知らぬ間に関学会館が見えてくる。そこからは半世紀以上も前の学生時代に通い慣れた桜並木が正門前に続いている。
 春は花、初夏は新緑。秋は紅葉。冬枯れの道を落ち葉を踏んで歩くのも心が弾む。たまには気分を変えて正門に直結する学園花通りも歩いてみるが、ぶらぶら歩くには楠通りが一番だ。いまの季節、通りに面した民家の軒先にハナミズキが美しく咲いているのを見るのも楽しい。
 けれども、それ以上に心弾むのは、第3フィールドに着き、ファイターズの練習を見る時だ。昨年、チームの主力として活躍した4年生の姿は見えないが、代わって一気にたくましくなった4年生や3年生が練習を引っ張り、声を掛け合って気合いを入れている。「男子、三日会わざれば刮目して見よ」という言葉があるが、学年が一つ上がるだけで、心構えがこんなに変わってくるのかと目を見張ることもしばしばだ。
 今春、入部したばかりのフレッシュマンも、グラウンドの隅っこに固まり、全員が揃って体幹トレーニングに励み、基礎体力を養っている。恵まれた体躯を持った選手が多いし、体は小さくても期待の持てる動きをしているメンバーが何人もいる。そこに厳しい目を注ぐ監督の姿があるのも、例年通りである。
 この時期、彼らが一通りのメニューを終えた後、いくつかの集団に分かれてグラウンドとその周囲の坂道を何度も全力で走る。それを見るのもこの時期ならではの楽しみだ。スポーツ推薦でファイターズの門を叩いたメンバー以外は知らない顔ばかりだが、先頭集団で突っ走っている顔は自ずから目に付く。過去の例を振り返ると、この時期、先頭を切って走っているメンバーは、プレーヤーとして必ず成長する。
 もちろん、先頭がいれば最後尾に置いて行かれる選手もいる。けれども彼らも歯を食いしばってがんばっている。その姿を見れば、思わず「がんばれよ」と声を掛けたくなる。
 練習の風景は例年通り。メニューは「走りモノ」をいくつか取り入れ、何かと工夫されているが、それでも集散や展開のスピードは例年と同じ。だが、この季節の練習を見ていると、なぜか「新生」という言葉が浮かんでくる。昨年まで先発メンバーとして、あるいは主な交代メンバーとして活躍していた4年生が卒業。その穴を埋めるはずのフレッシュな面々が横1線になって、競争を繰り広げているからだ。昨年からも試合に出ていたメンバーはもちろん、けがで戦列を離れていた選手や他競技から転出してきた選手らが冬を越してどこまで回復し、フットボールに馴染んできたか。昨シーズンはほとんど出場機会がなかった新2年生で、今季、頭角を現してくるのは誰か。そんなことを予想する楽しみもある。
 そんな新生ファイターズの一端を垣間見ることができたのが、先日の日曜日に第3フィールドで開かれた紅白戦だ。ほんの1時間少々の試合だったが、ほぼすべての選手が出場したこともあって見所は満載だった。
 会場でもらったメンバー表を手に、背番号と照らし合わせながら、目に付いた選手の顔を思い浮かべる。昨年はほとんどスカウトチームで活動していた2年生が4年生の主力選手を相手に一歩も引かないプレー繰り広げる。冬のトレーニング期間にしっかり鍛えたのだろう、他競技から転出してきた3年生が見違えるようにたくましいプレーを披露している。けがで1年間、戦列を離れていた3年生レシーバーは「今年は俺がチームを引っ張る」というオーラを漂わせたスーパーキャッチを見せる。
 もちろん、4年生も負けてはいない。声を張り上げてチームを鼓舞し、下級生の好プレーには惜しみなく拍手を贈る。文字通り横一線のスタートとなったオフェンスラインの下級生も踏ん張っている。ディフェンスラインやラインバッカーも、紅白戦とは思えないほどの激しい当たりを見舞う。
 週末、今季初の試合で誰が先発に名を連ねるのか予想できないほど、多くの選手が出場し、互いに見せ場をつくった。昨年は控えに甘んじていた選手の中から、今季は必ず出てくると僕が注目している選手はみな期待通りの動きを見せてくれた。こうした選手の名前はあえて書かないが、彼らはみな、次の試合、今週末の明治大との一戦では必ず活躍してくれるに違いない。
 それを確かめた上で、次回は遠慮なく名前を出そう。それまでは全員、横一線。新生ファイターズの新たな船出である。
posted by コラム「スタンドから」 at 19:34| Comment(1) | in 2018 Season

2018年04月07日

(1)新しい年に

 4月。桜が咲き、満開になって、散っていく。例年になく長い冬が続き、3月からは一転して暖かくなった今季は、開花も早く、散るまでの期間も短かった。その分、咲きそろった花は、例年にも増して美しかった。
 「学園花通り」から正門に続く花の道に新入生を迎え、ファイターズの2018年がスタートした。
 実際は、昨年暮れ、甲子園ボウルで敗れた日から、チームは再スタートを切っている。新4年生を中心に新しいシーズンを迎える体制を整え、方針を決め、期末の試験が終わるのを待ちかねて体力の養成にも取り組んだ。人里離れた「虎の穴」千刈キャンプ場での鍛錬、3次にわたるスポーツセンターでのトレーニング合宿。昨年はまだまだひ弱かった1、2年生の体がでかくなり、筋肉が盛り上がっているのを見れば、そのトレーニングの厳しさがうかがえる。
 それでも4月。新しい学年が始まる季節には特別の感慨がある。昨日、久々に練習を見る機会があったが、昨年とはまた違った雰囲気があった。グラウンドを支配し、チームを仕切っていた4年生の姿はないし、練習開始にあたって「ハドル!」と大きな声を上げるのも昨年の主将、井若君ではなく、新しく主将に就任した光藤君である。パートのリーダーも変わり、昨年まで、どちらかといえば4年生に遠慮していたようなメンバーが生き生きとリーダシップを発揮している。
 新しい3年生の顔つきも変わった。昨年まではチームに「ついていく」ことで精一杯に見えた面々が、いまは自信たっぷりな表情で練習に取り組んでいる。各ポジションとも、この学年と新2年生が4年生を突き上げるような形になれば、卒業生が抜けた穴も埋まるのではないかと期待が持てる。
 今春、入部したばかりの1年生の姿も見えた。僕は昨年夏、スポーツ選抜入試に挑むメンバーを対象にした勉強会で顔を合わせた面々しか知らないが、それでも、半年ぶりで顔を合わせると、懐かしい気持ちになる。ちょうどフレッシュマンの練習が終わった時間で、グラウンドを引き上げる何人かのメンバーと顔を合わせ、立ち話をしただけだが、それでもやる気満々の1年生を見ると、うれしくなる。「希望のポジションは?」と問い掛け「ラインバッカーです」「レシーバーです」と答えが返って来るたびに「がんばれよ。期待してるで」と声を掛ける。
 これからは先ず体力づくり。練習に耐えられる体作りに取り組み、基準の数値をク
リアした選手から順次、練習メンバーに組み込まれていくことになる。いまは「チー
ムに溶け込んでくれ」「毎日、喜び勇んでグラウンドに顔を出してくれ」と願うばか
り。まるで孫の成長を楽しみにしているおじいさんの心境である。
 新しいスタートに合わせて、今季はコーチ陣に新しく香山裕俊コーチが加わる。2012年の卒業で、松岡主将と同期のDBである。関西リーグの優勝をかけた最終戦、立命との試合で、相手のエースQBに渾身のタックルを見舞って試合の主導権をもぎ取り、そのままライスボウルまで突っ切った主役の一人といえば、思い出されるファンも多いのではないか。卒業後はチームのアシスタントコーチを務め、社会人のエレコム神戸でも主将として活躍していた現役プレーヤーでもある。
 今季からプロコーチとして就任。守備コーディネーターを担うという。先日、食事をともにしながら、じっくり話し込んだが、安定した仕事をなげうってファイターズに戻ろうと決意するまでには、結構、葛藤もあったそうだ。それでも、あえてプロコーチの道を選んでくれたことに、学生時代から彼を知っている人間の一人として大いに歓迎したい。
 アシスタントコーチとプロのコーチでは求められる役割も能力も異なる。けれども、大学でも社会人でも、チームを背負う主力選手として活躍してきた経験は必ず役に立つ。昨季まで社会人チームのプレーヤーを務め、他大学出身の選手と同じ釜の飯を食ってきたことも、役立つはずだ。大いにコーチの「技術と哲学」を勉強し、チームに還元してもらえることを期待している。
      ◇      ◇
 新しいシーズンに向けてこのコラムを再開します。昨季の悔しさを胸に秘めた「チーム光藤」のメンバーが今季、どのように努力し、チームを飛躍させるか。折々に伝えて行きます。ご期待下さい。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:41| Comment(0) | in 2018 Season

2017年12月19日

(33)今日は倒れても

 甲子園ボウルが終了する前後から、甲子園球場は急に寒さが募ってきた。気のせいか背中がぞくぞくする。これはヤバイと急いで駐車場に向かい、車に乗る。エンジンをスタートさせ、エアコンが効いてくると、ようやく一息つく。そのまま鳴尾から阪神高速に乗り、一路、和歌山県田辺市に向かう。
 車中、胸中に去来するのは、試合のことばかり。なぜ、相手攻撃に守備が振り回されたのか。なぜ、先日は立命館を相手に思い通りの試合を展開したオフェンスラインが相手に割られたのか。チームとしての力は、決して遅れを取っているとは思えないのに、選択したプレーがなぜ進まなかったのか。
 そんなことを考えていると、頭がはち切れそうになる。これはまずい。一息入れようと泉大津のサービスエリアに立ち寄り、水道の水で顔を洗う。しばらく屈伸運動と深呼吸を続けると、ようやく気分が落ち着いてくる。
 運転再開。今度は中島みゆきのCD「大吟醸」をセットし、気分を変えようと試みる。聞くともなく聞き流していると、やがて大好きな「時代」が流れてくる。「いまはこんなに苦しくて、涙も涸れ果てて」と一気に歌い出すこの曲は、その昔、カラオケで必ず誰かが歌っていた。懐かしい。
 「やっぱり中島みゆきはいいなあ、苦しい時の薬になる」。そんなことを思いながら聴いているうち、ラストにさしかかる。
 「たとえ今夜は倒れても、きっと信じてドアを出る」「今日は倒れた旅人たちも、生まれ変わって歩き出すよ」。この部分になると、どんなに苦しい状況でも立ち上がる勇気が湧いてくる。
 そのときも思わず「そうだ。ファイターズの諸君は生まれ変わって歩き出す」「きっと信じてドアを出る」と一人声を挙げてしまった。
 11月19日、関西リーグの最終戦で立命に完敗したチームが2週間後の12月3日、見事に立ち直って勝った。34−3というスコアもさることながら、チームの全員が結束し、ひたすら前を向いて戦った結果である。グラウンドに立つ以上、どんな相手にも怖めず臆せず戦うのは当然だし、これまでもそのように戦ってきたはずだが、あの西日本代表決定戦では、いつにも増してチームに熱い血が流れていた。そのようなひたむきな姿には、そうそう出合えることではない。
 しかし、甲子園では何かが違った。スタンドからでは気がつかないところで歯車が狂ったのだろう。守備は混乱し、オフェンスはなぜかばたつく。
 立ち上がり、QB西野が一気に右オープンを駆け上がって25ヤード。次は西野からWR松井に42ヤードのパスが通って相手ゴール前2ヤード。次は西野が機敏に左サイドを突いてTD。わずか3プレーで主導権を握る。小川のキックも決まって7−0。
 しかしこの間、エース松井が倒れ、担架で運ばれた。そこから、どこかチームに落ち着きがなくなる。「やばい、どうしよう」と動揺したのか。それとも、その後の日大の攻撃で1年生QBに走られ、パスを通されて「これは勝手が違う」とあわてたのか。
 動揺が動揺を呼ぶ。その隙を相手に突かれ、あれよあれよという間に前半終了。13−10とリードされて後半戦に。
 第3Qに入っても、試合は相手ペース。着実に10点を追加され、23−10と差が開く。4Qに入ったところでようやく山口がゴールに飛び込んで6点差に追い上げたが、残された時間は少ない。最後、自陣2ヤードから始まった反撃も及ばず、そのまま試合終了。悔しい結果に終わった。
 どこに原因があったのか。それはグラウンドにいる当事者にしか分からない。当事者でも分からないかもしれない。明確に分かっていることは、あの敗戦で今季、井若主将が率いたファイターズの戦いは終わった。もう同じメンバーで試合をすることも、試合に向けた練習をすることもない。濃密な時間が止まってしまったという事実である。
 それは同時に、新たなファイターズの出発の時、旅立ちの時でもある。たとえ今夜は倒れても、きっと信じてドアを出よう。今日は倒れた旅人たちであっても、生まれ変わって歩き出そう。明日を信じてドアを出るメンバーがいる限り、ファイターズは不滅である。
 4年生の諸君、お疲れさま。たとえ一敗地にまみれても、諸君がどん底から這い上がって立命との決戦に勝った事実は色あせない。自信を持って新たな戦いの舞台に立って欲しい。ありがとう。
 そして後輩の諸君。明日のファイターズを背負ってくれ。「ファイト・オン」の歌詞にある通り、勝者の名前を誇りにできるチームをつくってもらいたい。以上。

◇おことわり◇
 今年度も当コラムをご愛読たまわり、ありがとうございました。今回を持ちまして2017年度のコラムを終了します。新しいシーズンが始まる頃に再開する予定です。ファイターズが新たな戦いに挑むとき、僕も及ばずながら応援を続けます。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:38| Comment(3) | in 2017 Season

2017年12月14日

(32)戦術のスポーツ

 「フットボールは、本当に戦術のスポーツですね」。西日本代表決定戦が終了したとき、場内のFM放送を担当されていた小野ディレクターの口から出たこの言葉が忘れられない。実力が拮抗(きっこう)したチームが対戦したとき、勝敗を決めるのはチームの戦術であり、それを遂行する選手の力であるという意味だろう。
 たしかに立命館の選手は能力が高かった。気迫も素晴らしかった。リーグ戦では、その能力と気迫にファイターズはこてんぱんにやられた。けれども、2週間後に相まみえたとき、ファイターズの諸君はみな、目を見張るような動きを見せ、攻守とも、思い通りにゲームを支配した。
 何が変わったのか。どこが劇的に向上したのか。選手個々の精神的な覚醒もあるだろうし、チームとしての取り組みの質が上がったこともあるだろう。その辺の事情については、急きょ練習台として参加してくれた社会人の選手やチーム関係者からも断片的に聞く機会があった。
 パナソニックで活躍している上沢一陽君は「選手の目の色が違った。練習でもぴーんと張り詰めた空気があった」というし、同僚の梶原誠人君は「チームが一丸となって向かって行く気迫を感じた」という。それぞれが練習台として先発メンバーと対峙した体験からの発言だ。手痛い敗戦を糧として、チームが内側から変わりつつあったのだろう。
 そういう裏付けをもとに、ベンチは立命戦に備えて春から準備してきたプレーを惜しみなく投入した。それぞれが適切な場面、相手からすれば意表を突く場面で仕掛けられたから、相手側は対応にもたつき、結果としてファイターズの圧勝になったのだろう。
 もちろん、RB山口の個人技、QB西野の思いきりのよいパス、WL陣やFB、TEの強烈なブロック。そして大村コーチがかねて「今年のディフェンスはいいですよ。学生界では一番じゃないですかね」といっていたDL、LB、DBの奮起も素晴らしかった。そういう個々の選手の動きの素晴らしさとチームとしての結束力、それが周到な戦術によって存分に発揮できたことが、先日の西日本代表決定戦の勝利に結びついたと僕は理解している。
 さて、今度の日曜日は甲子園ボウル。日大との決戦である。互いにライバルとして長い歴史を積み重ね、日本フットボール史に大きな足跡を残してきたチームとあって、スタンドから応援する僕らもひときわ力がこもる。
 つい先日の立命戦の記憶が鮮明だから、ついそのイメージに引きずられてしまうが、今度は全く別のチームが相手。毎年、春の定期戦で手合わせしているが、それは全く参考にならない。とりわけ相手のエースQBが1年生とあっては、その戦術も含めて未知のチームと言ってもよいだろう。
 思い起こすのは2013年、池永主将率いるチームが日大と戦い、23−9で勝った試合である。立ち上がり、相手の第1プレーを粉砕した池永主将の動きがまぶたによみがえる。それは、決戦の1週間ほど前から特別に練習してきたプレーであり、それが見事に決まった。あのプレーで、甲子園の芝生の上に立ったすべての部員が「よーし、これで行ける。思い切っていこう」と大いに勢いづいたに違いない。逆に、相手の1年生QBにはその残像が目に焼き付いたのだろう。2プレー目からは動きにキレがなくなり、パスも正確性を欠いた。
 当時とはメンバー全員が一新されている。しかしあの年、あの第一プレーに勝負をかけた池永主将の動き、それを支えた仲間たち。具体的にはLBの小野君や作道君、仮想、相手主将として練習台を務めたOLの友國君らの努力と献身。いわば「ファイターズ魂」は、いまも上ヶ原のグラウンドに継承されているはずだ。
 その魂があって初めて、戦術も花開く。それは、チームが一丸となって立ち向かった先日の立命戦の結果が証明している。リーグ戦では完敗した相手に、わずか2週間で、今度は完勝に持ち込んだ。そこに何があったのか。チームとして、どの部分が覚醒したのか。僕には詳細は分からない。けれども僕は知っている。「練習は裏切らない」ということを。
 立命戦からの2週間、懸命に取り組んだ練習の成果を、今度は甲子園で見せてくれ。健闘を期待する。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:24| Comment(1) | in 2017 Season

2017年12月04日

(31)「もう一丁」

 ファイターズの勝利を見届け、夜の高速道路を和歌山県田辺市の仮住まいに向かう。2週間前は、運転中も気持ちが落ち込んでいたが、今夜は180度違う。気分は爽快。心は弾む。試合後に顔を合わせ、よく頑張ったと声を掛け、手を握りあった選手の顔が次々に脳裏に浮かぶ。笑顔、笑顔、満面の笑み。誰もがやりきったという気持ちをにこやかな表情に表している。勝利とはこんなに素晴らしいことかと、心の底から思えてくる。
 田辺に到着し、駐車場に車を駐めた途端にショートメールが入った。開いてみると、こんな言葉が入っていた。「石井さんの渾身のコラムが言霊となって選手に乗り移ったような勝利でした……」
 送り主は、毎日新聞OBのTさん。その昔、僕が大阪の社会部で大阪府警を担当していた時、同じ捜査4課担当として競い合った友人である。ともに関学出身、ファイターズの大ファンということもあって、担当を離れ、互いに新聞社を退職してからも付き合いがあり、ときおり電話であれこれと話し込む。僕のコラムにも、折りに触れて感想を寄せてくれる。先日の立命戦で敗れた時も、悔しい思いを分かち合い、今度こそ、と励まし合ってきた仲である。
 「言霊となって選手に乗り移った」というのはあまりにも過分な表現だが、今日、12月3日のファイターズの諸君のプレーには、遠くスタンドから眺めているだけでも、鬼気迫るものがあった。これぞ、魂のフットボールと呼んでもよかろう。
 例えば前回、あれほど走られたランナーを徹底的にマークし、ことごとく止めた守備の面々。1列目中央の藤木、寺岡、両サイドを守る柴田、三笠、今井。2列目の松本や海崎、吉野。そしてDBの小椋、横澤、畑中、木村。だれもが激しいタックル、素早い動きで相手の思惑を封じ込めた。インターセプトを決めた畑中、松本だけでなく、相手のファンブルを誘発した横澤や今井の動きも素晴らしかった。
 もちろん、オフェンスが先手を取ったことも大きい。とりわけ目立ったのがRB山口。まずは立ち上がりの第2プレー。自陣13ヤードから一気に58ヤードを走って、相手守備陣を慌てさせた。絶好のチャンス。これをQB西野からWR前田泰一へのスクリーンパスでTDにつなげた。その間、わずか4プレー。前回の立命戦では相手に立ち上がりの3プレーで得点を許したが、今度は見事にお返しを決めた。
 次の相手攻撃を寺岡や横澤の素早い出足でパントに追いやると、今度も山口が見せる。自陣28ヤード付近から一気に64ヤードを走って相手ゴール前7ヤード。そこから連続して山口を走らせてTDに結び付け、K安藤のキックも決まって14−0。
 前回の試合では、ゴール前の残り1ヤードがとれずにTDを逃がしたOLと山口の意地が爆発したような場面だった。これだけではない。攻撃のラインと山口は、第2Q中盤にもゴール前1ヤードからのランプレーを一発で決めてTDを獲得しており、見事に2週間前のお返しをした。
 ファイターズは後半にも、西野が前田泰一へのパス、前田耕作へのピッチでそれぞれTDを獲得。守備陣も相手をFGによる3点に抑え、終わって見れば34−3の圧勝。
 この得点差、この試合内容を、試合前に予想したファンはどれほどいただろう。前回の双方の戦い方を記憶している人の大半が、もっともっと苦しい展開を予想されていたのではないか。
 打ち明ければ、僕もその一人である。1回目の勝利で、相手は勢い付いている。この1年、自分たちの続けて来たことが勝利という結果を呼び込んだことで、大いに自信も付けているはずだ。逆に、ファイターズの面々は「なんで、俺たちのプレーが通らんかったんや」「今度も相手のランとパスが止められないのではないか」と思い煩い、無心に練習に打ち込めなかったのではなかろうか。途中、名古屋まで出掛けてもう1試合、絶対に負けてはならない試合を戦わなければならないというのも負担になったに違いない。
 けれども、ふたを開ければ見事なリベンジ。攻守ともに想像を絶する力を発揮した。試合後、インタビューに応じた鳥内監督の口から「選手、コーチが自分の予想を超える取り組みをしてくれた」という言葉が出たが、まさにその通りであろう。
 コーチの取り組みについては、作戦面に関係することも多いので、ここでは触れないが、選手の取り組みについてなら、この間、何度か練習を見せてもらった僕にも思い当たることはいくつかある。
 一番は、選手の目の色が変わったことである。練習の時間は普段通り、メニューもそんなに変わらない。変わっているのは選手の外見と表情である。上級生になればなるほど、思い詰めたような顔をしている。4年生は前から丸坊主にしているが、3年生の中にも頭をつるつるに丸めた選手が相次いだ。光藤や尾崎は以前から丸坊主だったが、今週に入ってからは松井、西野、光岡、横澤ら試合に先発している面々がそれに続いた。
 言葉数も少なくなり、話しかけても話が弾まない。それぞれが胸の内に不安と焦燥を抱え込んでいるからだろう。
 そんな彼らに、僕は何度も「語り継がれる伝説の学年になるチャンスだ。こてんぱんにやられた相手を、今度はこてんぱんに倒せ。そして伝説になれ」と声を掛けようとした。しかし、当の選手達が一番悔しい思いをしているのに、外野からあれこれ言っても意味はない。一番悔しい思いをしている選手諸君が自ら立ち上がり、まなじりを決して戦うしか道は開けない。そう思って、あえて中途半端な激励は控えた。
 それでも、何かのメッセージは届けたい。そう思って書いたのが、前回のコラムである。それが「言霊」となって選手諸君に届いたというのなら、こんなにうれしいことはない。
 大学、社会人を問わず、大半のチームはすでにシーズンを終えた。大学4年生の大半は引退している。しかし、ファイターズの諸君には、まだまだシーズンが続く。同じ釜の飯を食った仲間と、同じ目的を持った練習が続けられる。その幸せを胸に刻んで、日々の練習に取り組み、さらなる成長につなげてもらいたい。「もう一丁、やったろかい!」
posted by コラム「スタンドから」 at 14:46| Comment(3) | in 2017 Season

2017年11月29日

(30)がんばろう!

 気分が落ち込んだとき、仕事で行き詰まったとき、僕には思い出しては読み返す詩がいくつかある。三好達治の「乳母車」や萩原朔太郎の「純情小曲集」。宮沢賢治が死の床で書き残した「雨ニモマケズ」にある「西ニ疲レタ母アレバ、行ッテソノ稲ノ束ヲ負イ…ササムサノナツハオロオロアルキ」という心情にも心惹かれる。
 それでも気が晴れないときには、特効薬がある。それが大学時代に出合った吉本隆明の「ちひさな群れへの挨拶」である。
 1952年に発表された長い詩だが、そこにはこんな印象的なフレーズがある。
......
ぼくはでてゆく
無数の敵のど真ん中へ
ぼくは疲れてゐる
が、ぼくの瞋(いか)りは無尽蔵だ
ぼくの孤独はほとんど極限に耐えられる
ぼくの肉体はほとんど苛酷に耐えられる
ぼくがたふれたら一つの直接性がたふれる
もたれあうことをきらった反抗がたふれる
......
 このフレーズを一人、静かに繰り返していると、疲れ切った体が生き返り、落ち込んだ気持ちが高ぶってくる。「よーし、もう一丁やったろかい」という勇気が湧いてくる。
 今夜もまた、この詩に励まされてこのコラムを書いている。
 先日の立命戦で敗れた時、僕はしばらく気持ちの整理ができなかった。もちろん、互いに意地と誇りをかけて戦う試合だから、勝つこともあるし、負けることもある。そんなことは決まり切ったことだし、実際にファイターズが敗れた試合も、何度もこの目で見ている。
 けれども、先日の敗戦は特別だった。立ち上がりの相手の攻撃で強烈なパンチをかまされ、その痛手から立ち直れないまま、気がつけば試合が終わっていたからだ。
 「もっとやれるはずだ」「ここで尻尾を巻くようなチームじゃないだろう」という歯がゆい気持ちと、怖れていたことが現実になったという、どこか冷めたような気持ちが交錯する。
 スタンドから応援している僕でさえ、そんな気持ちになるのだから、実際に戦っている選手の心情はさらに複雑だったろう。「俺たちはもっとやれるはずだ」「どこから突破口を開くのか」と自分に問い、「ともかく目の前の相手を圧倒しよう」「一対一で勝つ」と自らを叱咤し、仲間を鼓舞して戦ったに違いない。
 けれども負けは負け。目の前の敵に敗れ、戦術でも対抗出来なかったことは、スコアボードに表示された数字が示している。
 この現実からどう立ち上がるのか。途中、名古屋大学との試合があり、次なる立命戦に全力を集中できなかったチームをどう立て直すのか。
 選手、スタッフはもちろん、監督もコーチも懸命に考え、打開策を練っているはずだ。次の決戦までの限られた時間に何を選択し、何を捨てるのか。自分たちに弱点があるとすれば、それをどのようにつぶしていくのか。相手に付け入る隙があると見たら、そこをどのように突き、打ち破っていくのか。12月3日まで、残された時間は短いが、いまが勝負の時だ。気力、知力、体力のすべてを投入して取り組む時間である。
 ファイターズの諸君
 無尽蔵の瞋り(まなじりを決した怒り)を 抱いて戦え
 極限に耐えた孤独を解放せよ
 苛酷に耐えた肉体をぶつけろ
 君が倒れたら一つの直接性が倒れる
 もたれ合うことを嫌った反抗が倒れる
 12月3日、万博記念競技場での決戦。それは、ファイターズがファイターズであるための決戦である。僕はその決戦に臨む諸君に心からの声援を送る。
 ファイターズに連なるすべての人たちも同様であろう。がんばろう!
posted by コラム「スタンドから」 at 00:20| Comment(1) | in 2017 Season

2017年11月21日

(29)悔しさの総量

 悪い予感ほどよく当たる。関西リーグの優勝をかけた日曜日の立命戦がまさにそれだった。
 試合開始のはるか前に家を出発。開門待ちの列に並んでいる時から、その予感が芽生え、徐々に大きくなっていく。ただし、その正体はまだ分からない。
 スタンドに入り、いつも通りファイターズが開設するFM放送の放送席に着き、昼飯代わりにサンドイッチを食べる。やがて、放送機材の準備をしてくれるマネジャーの山本君と三浦さんが到着。用意してくれた立命の先発メンバー表を渡してくれる。それを見た瞬間、悪い予感の正体が分かった。
 相手のメンバー表には攻撃に7人、守備には10人の4年生が並んでいる。パンターまで含めれば、合計18人だ。
 つまり、昨シーズンの2度にわたるファイターズとの決戦で、2度とも敗れるという辛い経験をしたメンバーが4年生だけで18人、3年生も含めると22人もいるのだ。彼らが昨年、この万博陸上競技場で味わった屈辱と無念。それを胸に抱きしめてこの1年間、必死懸命に過ごしてきたメンバーがずらりと並んで雪辱の機会をうかがっているのである。
 対するファイターズの先発メンバー中、4年生は攻撃に5人、守備に4人。1昨年、立命に敗れた時の悔しい気持ちを実際に戦って知っている選手は、3年生を含めても10人前後しかいない。つまり、同じように攻守11人ずつのメンバーを揃えて戦っても、チームとしての悔しさの総量に、圧倒的な差があるのだ。
 もちろん、悔しさの総量によって勝敗が分かれるということはない。勝ったチームは自分たちの取り組みが勝利につながったと自信を深め、迷わずにそれまでの取り組みを深化させてくる。逆に、敗れたチームは、自分たちのやり方に迷いが生じ、それによって貴重な時間を無駄にすることもある。「悔しさの総量が勝敗を分ける」なんていう、非科学的な主張には何の根拠もない。僕が勝手に思っているだけだ。
 しかし、僕は知っている。1昨年の11月、長居のヤンマースタジアムで立命に30−27で敗れた後、その試合に出場していた当時3年生の山岸君や伊豆君、岡本君らがその後の1年間、どんな気持ちで練習に取り組み、日々どんな行動をとってきたかということを。大きなけがに悩まされながらも、必死に治療に務め、最後の立命戦に照準を合わせて戦列に戻ってきたディフェンスの松本君、小池君、松嶋君。オフェンスでも松井君、藏野君、そしてランニングバックの橋本君、野々垣君、加藤君らがけがで戦列を離れた。彼らがけがと戦い、苦労して戦列に戻り、最後の最後で最高のパフォーマンスを発揮してくれた背後には「2度とあんな悔しい思いをしたくない」「今度は絶対に勝つ。2度戦えというのなら2度とも勝つ」という強い気持ちがあったことは、彼らの行動が示している。
 例えば主将になった山岸君は、手首に故障を抱えながら、常にチーム練習の始まるはるか前から一人黙々とダミーを相手に練習を続けた。それも常に相手の切り札であるRB西村君やQB西山君の動きを想定し、いかに素早くスタートを切り、思い切ったヒットができるかだけを念頭に、延々と、納得いくまで練習し続けていた。その成果を昨年の2度にわたるライバルとの戦いで遺憾なく発揮して西村君のランを完封し、相手のファンブルを誘ったり、セーフティを奪ったりしたのは、いまも目に焼き付いている。
 伊豆君も同様だ。3年生の時、スタメンで出場しながらチームを勝利に導けなかった悔しさをバネに、レシーバー陣にパスを投げ続け、自らのパス力を向上させると同時に、レシーバー陣を鍛え続けた。今年活躍している4年生と3年生のレシーバーは、彼が育てたといっても過言ではなかろう。
 こうしたメンバーの取り組みと、それを支えてきたエネルギーの源を尋ねると、そこには純粋に「勝ちたい」という気持ちと同時に「去年の雪辱をする」「あの悔しさを2度と味わいたくない」という強い気持ちがあったことは、想像に難くない。
 昨年のシーズン終了後、山岸君とゆっくり話したとき、彼は「七斗をはね飛ばし、QBをサックしてセーフティーをとったときは、最高でした。気持ちよかった」と、心からの笑顔で語ってくれた。
 全力を尽くして勝利を求めるのがスポーツマンの本能である。悔しい思いは二度としたくない、というのもまた、その悔しさを体験した者だからいえることだろう。そう考えれば「悔しさの総量が、勝敗を分ける」という僕の言い分にも、多少の説得力があるのではないか。
 次なる立命との決戦では、ファイターズの方が「悔しさの総量」では上回るはずだ。もちろん、その前に名古屋大学との戦いに勝つことが求められるが、それはそれ、常に今回の雪辱を意識して次なる取り組みを進めてもらいたい。
 時間は限られている。前回の戦い方の反省は必要だが、敗れたことを後悔しているゆとりはない。ひたすら前を向き、この1年間に準備してきたことのすべてを発揮してほしい。チームの全員が悔しさをエネルギーにして取り組めば道は開ける。僕はそれを信じている。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:48| Comment(2) | in 2017 Season